香りの愉楽 ~新しい香りの魅力を発見する~  平野佐和さん(1989 年卒)

フラ語同窓生による、フラ語同窓生のための勉強会(抄録) 

上智大学フランス語学科同窓会・会報No. 31(2018年2月25日発行)より再掲

※掲載内容は発行当時の情報です。

香りを創造への触発に活かす講義『ファッションとアロマ』を文化学園大学で担当、 アロマトリートメントサロンの監修、香りの 専門誌『PARFUM』の編集に携わるなど、 「香り」の分野でご活躍中の平野佐和さん。
3つのテーマ、「香りを聴く」「空間を香らせる」「香る人になる」についてフラ語 同窓生のために特別にお話をしてくださいました。
「嗅覚は命を守る重要な感覚」。当日は天然香料や最新のフレグランスを体感しながら楽しめるような内容でした。また終了後は茶話会で話がはずみました。

再掲にあたって 2022年7月

 講演当日は、香水瓶等の道具一式をスーツケースに入れ、雨の中引いてまいりました。10号館の教室で同窓生の皆様の晴れやかな笑顔に迎えられ、多くのご質問にも恵まれましたことに改めて感謝しております。
 オンラインでは不可能な嗅覚体験の共有。それは5年後の今となっては、実に貴重でありました。
 後に会報誌で講演録をご覧いただいたフランス在住の先輩方から、私が講演で引用したアンドレ・ジッドの言葉についてメールでご意見を寄せていただいたことも有難く、忘れ得ぬエピソードです。(平野佐和)

■「聴く」ように感じ・美的感受性を研ぎ澄ますこと 

Toute connaissance que n’a pas précédée une sensation m’est inutile. 》- André Paul Guillaume Gide 
何らかの感覚の先行しない知識は私には無用である。

自分の実体験や感じたことが先行しない知識は身につかない、これは私が「香り」から教えられたことでもあります。 

香りの印象は視覚的なイメージの名詞や、「眠くなる」、「目が覚める」等の動詞、「軽い」、「重い」等の形容詞で記録してください。調香師はこのようにして香りを自分の言葉で記録して覚えていきます。図では、例えば線で 表すと細い線なのか、太い線なのか。言葉でなくても形が浮かんだらそれも描いてください。

1 番はベルガモットという柑橘の果皮を圧搾して得た精油です。
イタリアのカラブリアが主産地。紅茶のアールグレイに着香されています。香水には欠かせない香料です。 

2 番目は、ダマスクローズの花を蒸留して得た精油です。
紀元前より存在し、あらゆる芳香バラの祖先の一つであるこのバラは「香りの女王」と呼ばれ、500 種類以上の香り成分を含んでいます。ブルガリアでこの精油の原料バラが収穫された 2012 年は気候に恵まれ、このバラの当たり年だったそうです。 

「香りを聴く」という言葉。
時間の経過と共に変化する 香りがちょうど音楽のようにも感じられるので、このように表現しています。
香りを聴く経験を重ねることにより 普段無意識に感じていた香りが判ってきます。
そして香りだけでなく感覚に入ってくる様々なものを分けられるようになります。
「美的感受性」と私は呼ぶのですが、何を美しい、心地よいと感じるかということがその人の表現の出発点になります。 

バラの香りをジャズピアニストが即興表現するコンサートを企画したことがあります。
香りは非常に有機的で、日により天気により感じ方が違い、人の感受性や記憶によって様々なものが連想されます。
香りは一時も同じではなく、その時の湿度や温度で変わる。ジャズも空気で変わる。例えば嗅覚から聴覚へ、こうした表現により脳が活性化されて新しい発見があったとピアニストか らも深く興味を寄せられました。 

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