狩野友信とともに (1) フォンテーヌブロー宮殿蔵「紅葉に青鳩図」への道 [ベルリン 奇跡の邂逅〜幕末御用絵師から明治へ フェノロサとの縁と東京美術学校・シカゴ万博]

洋画の修行

「江戸の縁日の見世物の前で」 

これは友信が幕末に洋画を習ったチャールズ・ワーグマン(Charles Wirgman)の描いた絵です。

パリで偶然に見つけて、面白いと思って買った版画なのですが、これにはワーグマンと書いていないので、知らずに買ったのです。

アイルランド文学のジョイスの『ユリシーズ』は今から100年前の1922年にパリの左岸オデオン座近くのRue de l’Odéonにあったアメリカ人のシルビア・ビーチ Sylvia Beachという女性が経営していたシェイクスピア書店という英語の本屋さんから出版されました。このため私はパリでこの辺りはよく歩き回っていたのですが、ある日版画を専門に扱うお店でこれを見つけたのです。「外国人が見た日本というのはこういう感じなのだな」というのがよくわかって、面白いと思いました。

後に2011年に横浜美術館で開催されたワーグマン展を見に行ったところ(注)、全く同じ絵で少し異なる彩色のほどこされたものが展示されていました。このためチャールズ・ワーグマンが「イラストレーテッド・ロンドン・ニューズ」に送った絵を元にした挿絵だとわかりました。
注:神奈川県立歴史博物館 チャールズ・ワーグマン来日150周年記念 ワーグマンが見た海-洋の東西を結んだ画家-

但し私の持っているものは、フランスの雑誌L’Univers Illustréという雑誌の挿絵として使われていたもので、日本に持ち帰って額装したのですけれども、裏側にはフランス語の記事が印刷されています。「イラストレーテッド・ロンドン・ニューズ」とは違って、Devant un spectacle forain à Yeddo (「江戸の縁日の見世物の前で」)というタイトルがついていました。

この時期にワーグマンに洋画を学んだ人は多くて、有名なところでは、教科書にも載っている鮭の絵で知られる高橋由一が横浜まで行って洋画を習ったということです。鎖国しているわけですから洋画を直接西洋人に習う機会は他にはなかったのです。友信も幕府の命令で習いに行ったというのは矛盾するように思ったのですが、幕府に西洋文明を取り入れなければならないという認識があったということでしょう。

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