フランス語学科のルーツを辿る 石澤先生によるリーチ先生の想い出

(3)リーチ語録 第1号:「見えないものを見る」努力

その一方で、約1ヶ月にわたる旅行中、リーチ先生は突然ひらめいたように私たちに語りかけてきました。そのリーチ語録の中に、サン=テグジュペリ(1900~1944年)の『星の王子さま』から引用した、「目に見えないものをよく見る」がありました。キツネは王子さまに「さようなら」と言ってから、こう語りかけています。「じゃあ秘密を教えるよ。とても簡単なことだ。物事は心で見なくてはよく見えない。いちばん大切なことは、目に見えない」。その前の場面で「『なつく』ってどういうこと?」と尋ねる王子さまに、キツネは「それはね、『絆を結ぶ』ということだよ」「もし君が僕をなつかせたら、僕らは互いになくてはならない存在になる」(『星の王子さま』河野万里子訳、新潮文庫)私たちはその時、きょとんとしたのですが、あとで思うと、当時、ベトナムとカンボジアには、戦乱の予兆があったのです。のちの、ベトナム戦争(1964~75年)とカンボジアの政治混乱と内戦(1970~93年)です。旅をしている足元のアジアの現実をよく見ておくように、との諭しでした。ここにはリーチ先生の教育的深謀遠慮があり、単なる語学研修ではなかったことが判ったのです。

リーチ先生の引率による、この学生海外研修は1964年にベトナム戦争勃発のため中止となりました。上智大学のアジア地域研究は、こうした学生交流から第一歩が始まったのです。

1 2 3 4 5
目次