10月9日は、味の素株式会社理事広報部グローバルうま味コミニュケーション担当の二宮くみ子氏(化学科1980年卒業)が「うま味概念の理論とグローバルコミュニケーション」というテーマで講義を行いました。
履修希望の学生(全学部対象)は定員の200名を超え、抽選が行われたとのことです。当日は同窓会関係者や大学関係者の聴講も含め、210席の教室は満席となり熱気を感じるほどの盛況でした。
以下に講義の概要を紹介します。
おいしさとうま味
「ここに”うま味調味料味の素”がありますが、これは”うま味”が発見されなかったらできなかった商品です」という二宮講師の言葉から講義は始まりました。
最初は、世界各国のさまざまな食品の写真をみながら、どのようにおいしさを感じるかを考えていきます。人間は環境・食習慣や食文化・体調などの影響を受け、五感全てを使いおいしさを感じる。そして五感の中の味覚には甘味・酸味・塩味・苦味・うま味があると説明されます。
また感覚的な美味しさの程度を表す言葉である「旨味」と科学的視点からみた、ある特定の物質の味質を表す「うま味」を使い分けています。
そのうま味を発見したのが日本人研究者池田菊苗博士でした。
ここであらかじめ配布されていたミニトマトの試食が行われました。池田博士と同じくトマトにどんな味があるのか感じ取ってみようとの提案です。
20回以上よく噛んで注意深く味わってみると、甘味・酸味・塩味・苦味を感じますが、食べ終わったあと、舌の上に残る後味を感じます。これが「うま味」です。
うま味には、持続性がある(酸味、塩味、甘味よりも長く続く味)、舌全体に広がる、唾液の分泌を促す(酸味を感じたときよりも長時間唾液がでる)という三つの特徴があります。
うま味と唾液分泌
酸っぱい物を食べると唾液が分泌されることは知られていますが、うま味によっても唾液の分泌が促進されます。うま味が持続性があるため10分間で比較すると酸味よりもうま味の方が分泌される唾液の量が多くなります。
今唾液はすごく注目されています。消化・溶解・洗浄だけでなく抗菌などさまざまな役割を果たしています。高齢者で問題となるドライマウスという唾液が減る症状では、おいしく食事ができなかったり口の中の衛生状態が悪くなったりします。また味覚異常の人では唾液分泌量が半分ほどになり、食欲減退や体重減少などの悪影響が出ますが、その患者に10ヵ月間うま味のある食材(昆布茶でも良い)を摂取する指導をした結果、唾液分泌量が増え味覚が正常になることも報告されています。薬を使わず治療ができることで注目されています。
食品中のうま味成分
昆布だしからグルタミン酸塩のうま味を発見した池田博士に続き、小玉新太郎氏がカツオだしからイノシン酸塩を、國中明氏が干し椎茸からグアニル酸塩のうま味成分を発見しました。また國中明氏はうま味成分を掛け合わせるとうま味が7〜8倍にもなるという「うま味の相乗効果」も発見しました。
発酵食品とうま味
チーズなどの発酵食品にはうま味成分のグルタミン酸が多く含まれていますが、原料のウシのミルクにはほとんどありません(1mg/100g)。ミルクの中のタンパク質が発酵によりアミノ酸に分解されてうま味が増していくのです。発酵の期間が長いほどグルタミン酸が増えていきます。
うま味の活用
うま味は国際語になり”Umami”と表記されます。ユネスコの無形文化遺産に「和食」が登録されましたが、「うま味」を上手に使うことによって動物性油脂の少ない栄養バランスの良い食生活を実現できるため世界各国の料理人から注目されています。
講義の最後に、食文化(この言葉も味の素の造語)の普及、啓発および研究支援を実施するための味の素株式会社の取り組みが紹介されました。
グルタミン酸およびうま味の研究は、食品化学だけでなく味覚心理学、味覚生理学、大脳生理学、栄養学などの研究者のネットワークで世界に広がっています。今回の講義の内容も、これらの研究によって科学的に証明された事実を紹介したものです。
二宮講師は最後に、「発信する情報がサイエンスベースであることを忘れてはいけない」と強調していました。
約1時間の講義終了後、質疑応答に入りました。うま味やグルタミン酸に関する質問のほか、味の素の海外事業の質問や二宮講師の学生時代の研究との関連、英語での苦労など多岐にわたる質問が相次ぎました。講義終了以降も講師を囲み熱心に話しかける学生も姿が多く見受けられました。