イギリスで毎日手仕事

ルーツをたどる  石井(木里)幸代(1990年卒)

好きなことば:自灯明

大学を卒業後、私は就職もせず親の反対を押しきってニューヨークへ旅立ちました。在学中から海外就職を強く希望しており、しばらく日本で働いてから出向いていくというような回りくどいやり方ができず、無謀なのは承知の上で飛び出してしまいました。時間はかかりましたが、経済界に仕事を得、ロンドンとニューヨークの移住を2往復したのち、現在の主人と出会い一度東京に戻ります。東京にはほんの4年程で再び主人がロンドンに派遣になり、2003年に渡英してから現在に至ります。2023年の夏で在英20年です。

子供は息子が二人。長男はロンドンで建築学を学んでおり、次男はなんと日本です。彼は高校卒業後突然日本に行くのだと言い移住してしまいました。血は争えないものです。

私は子供たちが幼少のころ見よう見まねで編み物を始めました。子供たちに手作りのセーターを着せてみたかったのです。渡英してから英国のデザイナー、デビーブリスさんの著書、Toy Knitsに出会い、棒編みで作る編みぐるみの世界にすっかりはまり込んでしまいました。いろんな動物マスコットを作っているうち既成のパターンでは物足りず、自分独自の作品を作るようになりました。デザインがかなり増えたところであるクラフト出版社に本の企画を送ってみました。パターンの書き方を本格的に学習したわけでもなく、編み物本がどのようにできるかの知識なども皆無でした。とりあえずやらかしてから後を心配する性格は近年でも変わっていないみたいです。ところがデザイナーとしての知名度が低かったことが功を奏してか一つ返事で受け入れていただけました。その後雑誌掲載の依頼が舞い込むようになり気が付くと毎月いくつもの連載を抱え締め切りに追われる日々となりました。もう十年ほどになります。

最近は少し思うところがあり雑誌の方は少しお休みさせてもらい、家の中をかたづけながらこれまで制作したサンプルを手放すことにしました。一つ一つ作品をあらためてみてみると年月とともに良くも悪くも自分の作風が変化したことに気づきました。今後どのようなプラットフォームでどのような活動をするのか、自分をどう表現していくのか現在思案中です。

最後に好きな言葉。

仏教の言葉に「自灯明」という言葉があります。お釈迦様がお亡くなりになる時嘆き悲しむ弟子たちに残された言葉で、各々自らを灯火とし、よりどころとしなさいという言葉です。大好きだった母を亡くしてしまった時支えになりました。生きていると辛いこともありますがこの言葉を思い出すと何とか前に進めそうな気がしています。

上智大学フランス語学科同窓会・会報No. 41(2023年2月25日発行)より再掲

※掲載内容は発行当時の情報です。
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