少し具体的に、モネ展を例に挙げよう。本展はパリにあるマルモッタン・モネ美術館が共催になっていて、48点の作品をお借りしている。ある日、親しかったこの美術館のコレクション責任者から、美術館の改修計画が持ち上がり閉館する予定があるので、その間に日本で展覧会を開催できないかと相談された。マルモッタン・モネ美術館については、日本でコレクションを紹介する展覧会がすでに過去数回開催されている。新たに展覧会を開催するためには、新しい視点が必要となる。その場で「日本でこれまで未公開だった睡蓮の大型作品を展示したい」と伝えた。私の頭の中にはオランジュリー美術館の「睡蓮の間」のような、没入できるオーバルの展示室を作りたい、というイメージがすでに湧いていた。昨今、新しい映像技術を駆使した没入型の展覧会が頻繁に開催されているが、モネのオリジナルの大型作品で、オランジュリー美術館のような没入空間を作れたらこれ以上の贅沢はあるだろうか。
次のステップは、学術的な部分を担当する、この企画にふさわしい会場となる日本の美術館に参画してもらうことだ。上野公園にある国立西洋美術館は、マルモッタン・モネ美術館の作品群と同時期の素晴らしい睡蓮の作品を所蔵している。1982年の『モネ展』以来、マルモッタン美術館の作品群と並べて展示されたことはない(この展覧会を大学4年生の時に私は見学して感銘を受けている)。NTVチームと相談しながら、国立西洋美術館にこのプロジェクトの話をしたところ快諾の返事をいただき、展覧会の準備が本格的にスタートした。2021年、コロナ禍が収束した頃だった。
準備期間中にも様々な問題が起こる。その一つが、マルモッタン・モネ美術館の工事計画が延期になったことだった。閉館中の作品借用という前提が崩れる話で、開催そのものに関わってくることにもなりかねなかったが、マルモッタン・モネ美術館長は開幕後に東京で行われた記念講演会でこの話題に触れて「我々は信頼するパートナーとの約束を守ったのです」と話された。信頼関係を築くのも重要な仕事の一つである。

オープニング風景 2024年10月 ©NTV
3月7日‐6月8日@京都市京セラ美術館、
6月21日‐9月15日@豊田市美術館で開催。