フランス語学科同窓会オンラインイベント 「高橋先生に聞く「フランス語学科のいま」抄録

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目次

オンラインイベント レポート

 2021年11月13日(土)、同窓生・現役学生・学科の先生と、上智大学フランス語学科を共通点にした皆さまが、日本の色々な場所から、また世界の色々な場所からオンラインでつながりました。

 今年度のイベントはZoomを使っての開催。フランス語学科にて現役で教鞭を執られている高橋暁生先生をゲストにお迎えしました。また、先生の魅力を引き出していただくゲストインタビュアーとして大六野礼子さん(2012年卒)、中山舞さん(2012年卒)、松澤オレリアン雅樹さん(2013年卒)にもご登場いただき、インタビュー&トーク形式で進行した濃厚な1時間半となりました。

 高橋先生の大切にされていることやご研究について、高橋先生と学生の皆さまとのつながり、フランス語学科のことなど、豊富なエピソードが飛び出し、ご参加いただいた皆さまは、それぞれの今、それぞれの思い出と重ねながら、お愉しみいただいた時間になったと思います。久々にアカデミックな世界に触れられた、フラ語で学んだことを誇りに思えた、フラ語同窓生の他の方の話もぜひ聞いてみたいと思った、などのご感想をいただきました。

世代を超え、縦や横のつながりを感じられる同窓会ならではの時間。歩む道は様々でも、フラ語という共通点の中でこのように安心して楽しめる場はとても貴重で尊いものだと感じました。
世代を超え、縦や横のつながりを感じられる同窓会ならではの時間。歩む道は様々でも、フラ語という共通点の中でこのように安心して楽しめる場はとても貴重で尊いものだと感じました。

同窓会では、できることを、できるだけ、手作りでがんばっております。今後も、応援していただけると大変ありがたいです。どうぞよろしくお願いいたします。

(企画担当:舟橋加奈子 2008年卒)

高橋先生に聞く「フランス語学科のいま」抄録

高橋暁生先生を中心に卒業生の方々の集ったイベント。暁生先生との繋がり、フラ語を経たからこそある今のこと、歴史学をとおして見る身の回りのことなど。舟橋加奈子さん(同窓会企画担当の)の司会でたっぷり語っていただきました。 

(構成 会報チーム)

高橋暁生(たかはし あけお)先生

2007年度4月フランス語学科に着任、15年目。
専門はフランス近現代史。フランス革命について、また近年はフランスの植民地の問題に広げて研究。2021年度はサバティカル中。
コーヒー、お香が好き、とんかつ屋巡り、映画を見たり本を読むのが好き。
ときどき長野県の山小屋に行って薪割りをしている。

大六野礼子(だいろくの れいこ)さん 

2007年入学、2012年卒業。
フリーランス翻訳通訳。国際芸術祭のコーディネーター、映画の現場通訳、写真集のフランス語訳など美術周りの仕事をしている。
フランス・アルザスのストラスブールで育ち、高校で帰国し上智に入学。美術の中心地パリへの留学を希望し、Science Po Parisへ。修行のつもりで金融へ就職したが悩んで辞めてフリーランスの道を選ぶ。
人生で迷走するたび暁生先生に応援してもらった。

中山舞(なかやま まい)さん 

2007年入学、2012年卒業。
学部時代ベルギーへ留学、卒業後日本で就職、6年前に大学院に入りなおすため渡仏。修士課程修了後、現在も在パリ。
フランスの会社で日本の伝統的工芸品や中小企業メーカーの商品をフランスの市場に導入する手伝いをしている。
暁生先生の初めての学生として「基礎1」から教わった。

松澤オレリアン雅樹(まつざわ おれりあん まさき)さん 

2009年入学、2013年卒業。航空会社に就職、7年勤めた後に子供の頃からの夢であるパイロットの仕事に就くため昨年転職。
現在はノルウェーでパイロット訓練中。
在学中から人間関係や将来のことを暁生先生に相談。
「もっと広い視野で見なさい」とのアドバイスを受けて「自分はやっぱり飛行機に携わりたい」と納得して今がある。

 

■舟橋●学生との繋がりをどう考えますか

高橋(以下敬称略) 学生と接するのが好きなんですね。一人ひとりの性格や見ているものも違うし。自分の道を見つけていくプロセスを見て、僕自身が勇気やエネルギーもらえるのが楽しくて、15年やってきました。今日のゲストがいた時代と今の学科の学生はそんなに変わっていません。「くそ真面目」っていうぐらい真面目な人たちが多い学科、そこに僕自身成長させられてきている。07とか08、09ぐらいまでは卒業式になると、嬉しさと悲しさが混じり合ってボロ泣きしてました。でも最近、一切泣かない。卒業後も繋がっていけると、わかってきたから。

■舟橋●上智のフランス語学科でフランス語を学ぶこととは?

高橋    1年生の学生たちに、日本語で見ている世界の広さがこれぐらいだとしたら、フランス語をきちっとやると、全く違う世界を見られるようになるよっていう話をします。英語のメディアや英語を通して知る世界とは違うものをフランス語を通して見ることができる。卒業後にフランス語と接して、フランス語を使って仕事をしていく人は一部に限られますが、それでもやっぱりフランス語を徹底して勉強し、フランス語を使ってフランスやフランス語圏について研究し、しがみついて4年間送る経験をしている人としていない人とでは、今の社会を見る視点の複雑さみたいなものは明らかに異なってくる。 

中山   留学して違うカルチャーの人たちと交流して、実際に使ってみる経験が、「あ、フランス語やっててよかったな」っていう最初の波でした。卒業後、英語も使わない環境で3年ぐらい働いて「いややっぱり無理、もう一回勉強しよう」とフランスに来てから、こちらでフランス語学科出身の人たちと話すとすごく安心するんです。広い目線で見ることを知ってる人たちだし、真面目にコツコツやることを一生懸命頑張ったことがある人たちって、そこだけでも違う。その感覚が今の仕事でもすごく求められていると感じます。

大六野 言葉を学ぶというのは違う文化を学ぶこと。自分とは違う前提で生きている人たちがいる、他者が他者であることが当たり前だとフランス語学科の人たちは知っている。特にアート系の通訳翻訳をやっていると、ただ言葉ができればいいわけじゃないというのが分かる。アーティストの中には、自分が「ふわっ」と思っていることを言語化するのが得意じゃない人もいる。それを掬い上げて、私なりに解釈して伝えるのが自分の仕事だと思っています。言葉を扱うというのは、自分の思考の外で起こってることを常に考え、想像力を働かせながら生活すること。私のまわりのフランス語学科の人たちは皆それができるから、安心して話せる。優しいし、思いやりにあふれているし、下手に卑屈にならないし、すごく楽ですね。

松澤   僕は社会人になって「フラ語は突然訪れる」という経験をしました。武器を持っていると毎日使わなくても突然機会が訪れる。空港で働いていたときに、フランス人が成田と羽田を間違えて、成田のチケットを持って羽田に来たんです。日本では変更不可のチケットだったけれども、フランスの代理店に電話して、調整してもらって何とか変えられました。そのときにフランス語が使えてよかったなと思いましたね。 

■舟橋●高橋先生の研究の根柢にある関心は?

他者と自己を認識することについて

高橋    フランスの植民地になった、とりわけインド洋の島々(マダガスカルも含め)へ宣教師・軍人・官僚、あるいはフランス本土での生活がいやになっちゃったような貴族崩れ、そういういろんな人たちが海外旅行をし始めるんです。17世紀末からフランス人は盛んに外に出始めるんですけど、18世紀の終わりの、インド洋地域を旅行した聖職者の旅行記を今ちょうど読んでいるところです。大航海時代以降、ヨーロッパの人たちが非ヨーロッパ系の–非キリスト教圏の-人たちと出会う。そういう人たちがどういうふうに他者を認識するか、自分たちと違う人間をどう定義していくか。自分とは違う誰かを認識するとき、裏表の関係で自分も意識している、それがテキストに垣間見える。旅行記とか回想録に見られるフランス人の他者認識と自己認識のような問題を、今資料を使いながら扱っています。

 僕自身が日本人であるというふうに感じること-ナショナルアイデンティティの問題-、自分のアイデンティティがどう形成されてきたか、またもう少しマスとしての日本人やフランス人のアイデンティティということに元々関心があって、こういう研究をやっています

フランスTV/イギリスBBCの東京オリンピックの広告動画と、日本の人たちの反応

高橋   今年の夏のオリンピックパラリンピック、僕にとっては面白い現象でした。とりわけフランスTVとイギリスのBBCが作った東京オリンピックの広告動画が面白かった。

フランスTVのはお相撲さんが飛んだり滑ったり浮世絵っぽいようなものを背景にしながら神社の鳥居を飛び越えたりして動いていく。いわゆる日本的な記号がたくさん出てくる。日本人の人たちの反応は「素晴らしい、さすがフランス、よく日本のことを理解してる」と大絶賛。

一方BBCはゴミゴミしたアメ横みたいなところにカメラが入っていって、駄菓子屋か雑貨屋か、おじさんがひとり店番しているお店の中から日本のサブカルチャーに焦点があって、東京のネオン街を映してアニメが流れたりする。こちらは日本人の批判が目立った。この反応の仕方の違いが、僕にとっては面白かったですね。

中山  私も仕事で、日本の文化とフランスの文化を常に比較し、何を前面に出して「日本」を伝えたらいいのかがあります。例えば「禅」。フランスでは、ヨガもお寺もスピリチュアルなよくわからないものも、エコロジーなただの自然も全部「禅」。混ざりすぎていて、日本人からしたら「いやおかしいでしょ」っていう感覚なんですけれども、それがフランスでは「禅」とされている。じゃあ日本人が考える日本の「禅」を出せばフランス人が好きって言ってくれるのかって言ったら別にそうでもなかったり。でも「フランスと日本ってお互いにリスペクトがすごいあるよね」という話をよくするのです。イギリスと日本、ドイツと日本と、フランスと日本のリスペクトのしかたは違う。文化、伝統、職人芸、そういうものが好きというところでは「すごく合う」。

大六野 アートの仕事をしていても、海外に出ていく日本人の作家は、日本人であることをある程度プラスに持っていかないと押し負けるところもあるように見えます。分かりやすい例だと、素材に和紙を使ったり、墨を加工してデジタルプリントにしたり、何かしら「日本ぽさ」を出すこともあります。作家自身がやりたい表現と、海外で求められる表現が、常に彼らの中でせめぎ合って、一度外に行った人ほど自分がどういうことを表現したいのか、より深く考えて帰ってくることが多い気がします。自分の国にいったん立ち返ってから、外の人をも説得できるコンテクストを考えることがアーティストに求められていて、どこまでいってもナショナルアイデンティティから逃れられないんだなっていうのを感じますね。

最近の学生さんがゼミ、卒論で扱うテーマは?

高橋   カリキュラムが2014年度から少し変わって、今は卒論を書くのがメジャーです。例えば中世世界と教会音楽。また今年の学生さんではノートルダム大聖堂そのもの。ノートルダム大聖堂が燃えたときのフランス人の反応がいろいろでした。周りに集まって燃え落ちる教会を見ながら賛美歌を、ラマルセイエーズを歌っている人たち、涙流して崩れ落ちる人たち。それって一体何?単なる宗教的な信仰心だけではない、ナショナルなアイデンティティの問題も絡むのでは?と考え、「ノートルダム大聖堂がフランス人にとってどういう存在なのか」というテーマで書いています。

 ファッションの歴史やワインの話を扱う人も多い。動物愛護の歴史も。「なんでこれほどペットを愛するのか」。動物が虐待の対象から愛玩、愛情の対象になっていくのは17世紀末のイギリスとフランスなんですよね。動物の扱いが変わるってことは、人間の社会が変わる、人間自体が変わっていったことなわけ。

 去年の卒業生では柳宗悦(やなぎむねよし)-日本の工芸の父-を扱った人がいる。日本の工芸、民芸という世界は実は19世紀以降のフランスのアール・ヌーヴォーとかアール・デコの歴史、あるいはイギリスとも密接な関係を持っている。そういうところに視野を持ちながら卒論を書いたりもしています。死刑制度の歴史とかね。「フランスは死刑が廃止されているけど、日本は残っている、どうしてか」。

 僕は、歴史家です。歴史学をディシプリンとして研究してきました。だけど史学科ではなくフランス語学科に就職して、ほんとうに良かったなと思う。必ずしも歴史好きな人たちが集まってくるわけじゃないけれども、ゼミ生の問題関心が多種多様で、学生とやりとりしながら、歴史学のディシプリンを使って、今の僕らの周りにある現象や問題を扱う。僕自身が勉強しないととても指導できないケースもある。一緒に勉強しながら指導しています。 

■舟橋●高橋先生から同窓生の皆さんへ伝えたいことは?

高橋 今の学生たちに言いたい。これだけカラフルで多様な生き方が本来あって、フォーマットなんかどこにもないんだと、今日のゲストが示してくれている。先輩たちの姿を見て、生き方の多様性を見て、勇気、希望を持って欲しい。  「フラクラ(フランス語倶楽部)」っていう学科内の親睦を図るサークルがあるのですが、隠れたテーマは卒業生と現役生の間を繋ぎたいということ。18才から22才ぐらいまでの学生にとって何より響くのは、近い世代かなっていう気もするから、若い卒業生たちに出てきて欲しい。今後いろいろ声かけたら話しに来て欲しいと思っています。

幅広い年齢層の卒業生から感想が寄せられました。

◇現役の学生さんから◇ 

とても楽しかった。先生や先輩方のお話を聞いて、やりたいことに貪欲であってもいいのかもしれないと、自分の将来に対して前向きな気持ちを持つことが出来た。

◇高橋先生に教わった世代の卒業生より◇ 

フランス語学科らしいキャリアの歩み方をしている若手を、現役にも歳の離れた卒業生にも示せる人選だった。/暁生先生の話を久しぶりに聞くことができ、先輩たちがいろいろな生き方をしていることを知って、明日からまた頑張ろうと思った。/在学時代の暁生先生とのやりとり、かけていただいた言葉、卒業後も大切にしている考えなどに改めて思いを巡らすことが出来て嬉しく充実した時間だった。

◇それ以前の世代の卒業生より◇

自分のアイデンティティを築いたフラ語の現在を知りたくて参加した。同窓生として共感できる話題が多く、刺激になった。/今のフランス語学科の様子がわかった。/若い卒業生たちが世界を舞台に多様に活動していることが感じられた。/今の若い方々も同じような思いをフランス語学科に対して持っていると分かり、心底嬉しく思った。/先生と生徒たちの関係の理想的な形が存在することに感動した。先生や若い後輩たちとまた交流する機会を夢見ています。

高橋暁生先生より

「卒業生のつながりに少しでも貢献できたのなら満足です。こういうの今後もやってもいいですね(笑)!学科として今後も同窓会にはお世話になることと思います。後輩たちのこと、どうぞよろしくお願いいたします。」 

上智大学フランス語学科同窓会・会報No. 39(2022年2月25日発行)より再掲

※掲載内容は発行当時の情報です。

 

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