フランス語とつきあって   泉邦寿先生

 私がフランス語が好きになったのは、大学以前の学校で習ったのがきっかけですね。その後、大学では初め別の道に進んだのに、結局はフランス語、言語学へと回帰したぐらい入り込んだわけですから 確かに好きなんですが、なぜと聞かれても本当はよくわからないんです。 フランス語をとりまく雰囲気や人の影響が大きかったのでしょう。
 若い頃から山が好きだったので、 8千メートルを初めて登ったフランス隊の隊長エルゾーグの 『アンナプルナ登頂』やその隊員で山岳写真家のレビュファの本などは忘れられません。そんな傾向ですから、サン・テグジュペリでも『人間の大地』や『夜間飛行』が好きですね。 これは日仏学院でサカイ = ブロック先生に習ったので、とりわけ印象深いのですよ。こういうことの影響は大きいですね。

  では、フランス語から私が得たものは何かと考えると、沢山ありますが、まず、ことばは明晰に使う必要があるのを学んだということでしょうか。よく、フランス語は言語そのものが美しいとか明晰だとか言われますが、そういうことでは ありません。フランスではことばの明晰な「使い方」が重視される傾向があるのです。私はことばに対するこの姿勢を学び、日本語でもそれを意識するようになりました。

  それから、外国語として英語だけしか知らない人と違って、 フランス語も知っているおかげで、多様性へのセンスが持てたんではないかと思います。今、多様性と言いながら、日本では英語一辺倒がますます進んでいますが、言語に限らず、社会、文化を見た場合にもそれを強く感じますね。だから、 日本語、英語、フランス語の3点測量で世の中を見ることが できるのは幸いだと思います。もちろん、フランス語が使われる社会、文化の魅力は大きいのですが、これについては他の方におまかせしましょう。 

上智大学フランス語学科同窓会・会報No. 37(2021年2月25日発行)より再掲

※掲載内容は発行当時の情報です。
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