『暮しの手帖』というタイムマシン 

花森安治の仕事

 花森安治は天才でした。編集長でありつつ、表紙絵や挿絵も描き、デザインもし、文章はもちろん、キャッチコピーの名手であり、服飾研究家であり、反権力のジャーナリストであり、つまりは庶民の味方でした。
彼の文章にこんなものがあります。

「ぼくは、〈暮し〉という日本語が好きなのです。美しいとおもいます。いくつにもたたまれ、しわだらけになり、手あかにまみれた千円札、あれをじっとみていると、これをたたんだりのばしたりしてきた、大ぜいの人の指が、目にうかんできます。たのしそうな笑い声や、身を切られるようなため息が、きこえてきます。うすぐらい灯の下で煮えている食べもののにおい、青空にひろがってゆく石けんのにおい、がにおってきます。〈暮し〉という言葉には、そんなふうな、あたたかさ、せつなさがこめられています」

 素敵ですね。63 年に書かれたものですが、これは花森さんの視線、そして『暮しの手帖』の感覚を象徴するような文章だなって思うんです。上ではなく横、下、仲間 を見ていますね。 

『スタイルブック 1946夏』より 協力 暮しの手帖社

 あるいは、皆さんご存じの商品テスト。あれこそが庶民の立場に立った買い物ガイドのはしりだと思います。
 たとえば 、これ 。「 ベビーカーをテストする 」。『 とと 姉ちゃん』でもこのシーン、ありましたね。何十キロも走行させて耐久性をテストする。実証するのです。

これを見て凄いと思うと同時に、僕が編集者として感じるのは彼のパフォーマー的な側面です。この写真も、きっとこんな風にぞろぞろとテストしたわけでは絶対ないわけです。こんなおしゃれな格好でもなかったと思います。 あくまで誌面で目を惹くための戦略ですね。 

協力 暮しの手帖社
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