『暮しの手帖』というタイムマシン 

 最たるものはこちらです。「焼いた食パン 4 万 3 千 88 枚」 という写真。トースターの商品テストです。4 万枚を綺麗に積み上げています。こんなふうに積む必要は実際はないわけですよね。しかし、これで伝わってくる凄さがある。「バカだなあ!」ってまず思う。目を奪います。未だこれを超えるような表現ってないんじゃないかと思い ますね。1969 年の傑作記事です。 


協力 暮しの手帖社

 雑誌の塊のような人ですね。僕なんか「優れた編集者 はいかにして人のマワシでいい相撲をとれるかだ」なんて恥ずかしげもなくうそぶいたりしているのですが、花森さんは全部独りでやっちゃう。凄いです。だから彼が 1978 年に亡くなったとき『暮しの手帖』は相当大変だったそうです。誰が編集長を継ぐのか? 誰が表紙絵を描くのか?

その「?」は今に至るまで続いている気がします。ですから、僕のたいへんな立場、わかっていただけると思います(笑)。いまだにあるんですよ。「花森さんなら、こんなことしないよ」みたいな手紙が読者から来る。すぐ来る(笑)。ご年配の方から、電話もかかってくる。ぼくはこわいので編集部の電話が鳴っても出ないことにしています。誰かが出て、それが読者からだと 2、 30 分しゃべることになるなんてざらにあるんですよ。

 そうそう、『暮しの手帖』は、ご想像のことと思いますが、 ご高齢の読者が多いのです。まあそれは僕らの雑誌だけでなく、全体的に本や雑誌を読む人が高齢化しているということもありますね。35 歳より下の人は雑誌を読まな い、なんていうのが 5 年前の定説でした。つまり今だと40 歳以下の人は雑誌を買わない、新聞も読まなくなっているのかな?……由々しき事態なんですね。電車の中で雑誌や新聞を読んでる人がいなくなりました。たまに文庫本を読んでる人がいたら、とても素敵に見えたりして (笑)。 

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