『ぐりとぐら』と、父の想い出

 父は、中世ヨーロッパの文化や宗教、教会史を研究する学者でした(里見元一郎と申します。清泉女子大学で教鞭をとっておりました)。フランスに行った時にこのかわいい絵本を見つけてお土産にして、翻訳してくれたのです。私たちが自分で読めるように、全部ひらがなの分かち書きで書いてあります。私はこの絵本が大好きで、ほとんどそらで言えるくらい何回も何回も読みました。最初は、こんな文章です。

  おひさま きらり よい ひより。

  きょうは おやすみ!

  ぷふ と のあろうは たのしく きゃんぷに でかけます。 「このちかく で とまろうよ」と のあろうは さけびました。

 私はこの本を開くたびに、そして父が書いてくれた小さなひらがなを見るたびに、優しかった父を思い出します。文の一言一言には父の人柄が出ていて懐かしくなり、私たちのためにせっせと絵本に書き込んでくれた父の姿を想い、幸せだった小さい頃がよみがえります。

 ちなみに,父は子ネコの名前は「プッフとノワロ」ではなく、「ぷふ と のあろう」と訳してくれていました。これは父の翻訳感覚でしょうか。

おひさま きらり よい ひより。

 父は翻訳が得意で何冊かの本を翻訳出版しました。その中でも、オランダのホイジンガ著「ホモ・ルーデンス」(=遊ぶ人、人間の文化はすべて遊びから生まれたという内容)という本は、今でも売れ続けていて、講談社学術文庫にも入れていただけました。時代を越えて読み継がれているのは、父にとってもうれしい限りだと思います。

2歳の頃の私と父
講談社学術文庫に採用されて喜ぶ晩年の父
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